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【ショートショート】帰路と誕生日

 こんにちは義里です。
 第11回文学フリマにて無料配布した折本「帰路と誕生日/義里カズ」を公開します。
 置き方が悪く、結構余ってしまいました。毎度添えればよかったのに……!

 pdfファイルはこちらです。
 紙は薄い方がきっちり折れるかもしれません。
http://aerial-futurologist.up.seesaa.net/text/8pmaker6.pdf

 なお、pdfの作成は8p折本メーカー様を利用させていただきました。御礼申し上げます。

 本文は追記からどうぞ。





    帰路と誕生日
           義里カズ
 
 
 一年弱も失踪していた彼女が、いま目の前にいる。
 その事実だけで、俺の頭は真っ白になった。
 もう一度瞬きして、記憶と変わらない後ろ姿を確認する。
 なぜ、どうして、こんなところに――
 
 
 今日は俺の誕生日。
 といっても、一人暮らし三年目の大学生には、祝ってくれる同居人などいるわけもなく、バイトからの帰り道がひときわ寂しく感じた。
 こんな時はいつも思う。衣里がそばにいてくれたら、と。
 一年前はそばにいてくれたのに。突然大学からもアパートからも消えて、会うどころか姿すら誰も見掛なくなった。軽く騒ぎにもなった。付き合っていた俺からすれば当然何が起こったのかわからず、落ちこみ度合いも普通ではなかった。たぶん今でも落ちこんでいる。
 自棄酒でも呷ろうか、そう思いコンビニに足を向けたところで、背中に何かが激突し、手が胴に回された。
 耳元ではしゃいだ声が響く。「こんなところにいたんだ! あはは」
 その笑声が誰のか分かった途端、俺は息が止まりそうになった。その柔らかく細い腕をぐいっと掴み、向き直ってその顔を見る。
「衣里……衣里!」
「ど、どうしたの? そんなに吃驚した?」
 あまりに怪訝な表情をする彼女を抱きしめ、その存在を再確認する。
 衣里だ。本物の衣里。ここにいる、十一ヶ月ぶりに。
 ところが衣里は、変なことを言った。
「なに言ってるの、ほんの数時間前に会ったじゃん」
「え……? なにを、だって、衣里はこの十一ヶ月……」
 もしや俺が間違っていたのかと不安になったところで、彼女は「ああ」と合点したように頷く。
「そっか。隆生から見ればそうなるんだね。うん、じゃあ説明する」
 衣里は俺の手を引き、微笑みながら言う。
「私ね、時間を飛んだの」
 
 
 衣里が進む方向は俺のアパートで、それだけで彼女が俺のことを忘れていなかったんだと信じさせてくれる。
「ひとつ、どうしてもやりたいことがあってね、ちょっと未来に行こうと思ったの。だからタイムマシンを借りて」
「タイムマシンって、伯母さんの?」
「それそれ。最初は半信半疑だったんだけど、飛んでみたらぴったり。それが今」
 つまり、彼女はあの時から十一ヶ月後へと移動したわけか。ちょうどジャンプするように。あの時の俺から見ればまるで姿を消したように。
「十一カ月前って、俺と話をした後じゃ」
「そうそう。で、飛んで用事を済ませたらすぐ戻ろうと思ったんだけれど、今手元にタイムマシンがないじゃない。あれ、これ失敗したかなーと思ってうろついていたら、隆生にそこで会ったってわけ」
 はあ。なんとなく事情は分かった。
「心配したんだぞ、衣里は一年弱も失踪扱いなんだ」
「あ、そうなんだ? 私にとっては数時間なんだけれど。そうかー、じゃあ私は戻れなかったってことだね、その十一カ月前からいないってことは」
 俺にとっては、十一ヶ月もの断絶。彼女にとっては、数時間を挟んであの時と現在の俺に連続して出会った、というわけだ。どうにも面倒くさい。
 
 
 それでも。
 俺の手を引く彼女の体温が、あまりにも心地よくて、ほんものっぽくて。
 当たり前のことに、俺は安心してしまった。
「衣里は分かんないだろうけれど、吃驚したし、落ちこんだし、寂しかった」
「……ごめん。まさか戻れないとは思わなくてさ。私としてはお使いみたいなものだったんだけれど。……うふふ」
「なに、その笑い」
「いやー、見たかったかも。隆生が寂しがるところ」
 むっとしたので彼女の頭にこぶしを軽く当てる。寂しがる俺なんて、数分前に見ただろうに。
 
 
 アパートで、俺はまた驚かされる。
「どうして玄関の鍵が開いてるんだ?」
「さっき私が開けたの。時間飛んで来てすぐ」
「なんだ、びっくりした」
「ねえ、だめだよ隆生、合鍵の隠し場所を同じにしておくなんて。十一ヶ月も経っていたんでしょう? ポストの裏なんてすぐバレるって」
 合鍵をそのままにしておいた理由。そんなの決まっている。
 衣里が戻ってくるかもしれないと期待していたから。
 戻ってきたときに、ひょっこり俺の部屋にいて欲しかったから。
 ……言えないな、こんな恥ずかしいこと。
 さて。もう一つ、真っ先に聞いておきたかったこと。
「衣里。時間を飛んでまでやりたかったことって、なんだ?」
 十一ヶ月も俺を置いていった理由。今最も知りたい回答。
 衣里は悪戯っぽく笑う。
「それは見てのお楽しみ」
 そう言うとドアを開け、俺の背中を押し室内に入る。別に、何の変わりもない俺の部屋……ではなかった。
 
 
『HAPPY BIRTHDAY TAKAO』
 ポップな字体で書かれカーテンレールに掲げられた幕。四方をカラフルに飾りつけられた壁。ところどころにイルミネーション。テーブルの上にはホールケーキ。
 部屋が、パーティー仕様になっていた。
 
 
 度重なる驚愕に何も言えない俺に、彼女はご満悦相だった。そっと種明かしをしてくる。
「前の誕生日、えっと隆生にとっては去年の誕生日になるのかな。私、そのとき知らなくて、祝うことが出来なかったじゃない。気づいたのが一ヶ月も後で」
 そういえばそんな話もした気がする。そしてその話の後、衣里は消えた。
「私それが悔しくってさ。決めたの。来年こそは、思いっきり祝ってあげようって」
「だから、時間を飛んだ?」
「そう! 未来の私が飾り付けをしておいたなんて凄いサプライズでしょう? まあ、元の時間に戻れなかったからむしろ心配させる結果になっちゃったけれど」
 はあ。もう俺は何も言えなくて、衣里に導かれるように座る。
 ケーキの中央のチョコレートにも、文字が書いてあった。
 

『誕生日おめでとう。今の私も未来の私も、隆生のことを祝っています』

 
 向かいに座る衣里が、大きな声をあげる。
「隆生、誕生日おめでとう!」
 今日は俺の誕生日。帰路の寂しさなんて、とっくのどこかに飛んでいた。
 


           おわり


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despairyouth

Author:despairyouth
絶望系青春同盟
物語サークル。

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 小説書いたり麻雀打ったり。
 同盟のディティール担当。
 執筆のほか、表紙写真およびデザインを担当。
 http://syousiki.hatenablog.com/

・義里カズ
 物語書き。いろんな所で文章公開中。
 同盟の手続き担当。
 執筆のほか、各種手続およびレイアウトを担当。
 http://aerial.kitunebi.com/

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2011/06/12 第十二回文学フリマ
2012/05/06 第十四回文学フリマ
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「青い引力」義里カズ


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○2012/05/06 第14回文学フリマ
・「We Are Romantic 3 ―図書館×○○―」絶望系青春同盟・編
「We Are Romantic 3 ―図書館×○○―」絶望系青春同盟・編
・「雪はまるで泥のよう」義里カズ
雪はまるで泥のよう」義里カズ


○2011/06/12 第12回文学フリマ
・「私の存在証明」義里カズ
「私の存在証明」義里カズ
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「トラブラー・トラベラー」少色
・「We Are Romantic 2」絶望系青春同盟・編
「We Are Romantic 2」絶望系青春同盟・編


○2010/12/05 第十一回文学フリマ
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